「お前さ、金曜のあれはなんなの?」

 珍しく晄汰郎のほうから話しかけてきたと思ったら、週が明けた月曜日も安定した真顔で尋ねられたのは、自分でも不思議で仕方がない、例の突発的衝動のことだった。



 先週の金曜、詩は晄汰郎に本命お守りを渡したものの受け取ってもらえなかった。正しくは「いらない」と突き返されたのである。

 理由は、詩が女子の計算を駆使して晄汰郎を彼氏にしようとしたから。「顔は可愛いんだけど、ナイ」と真顔で言いやがった晄汰郎に怒り心頭したのは言うまでもない。


 その後、下校コースにしているグラウンド脇の道でフライを追って下がってきた晄汰郎とばったり出くわした。

 高いフェンスで囲まれたグラウンドの、こっちとこっち。数十分ぶりの、金網越しの再会だった。


 どうしてそうなったのかは、詩本人が一番わからない。ゴリラ姿勢でノックを待つ晄汰郎なんて、ちっとも格好よくなかった。

 ただ。


『……また、渡すから。受け取ってもらえるまで、何回でも。……じゃあね』


 そう言って走り去ったことは、よく覚えている。

 全速力で坂道を駆け下りたことも、まさか今さら自分のほうが晄汰郎を意識してしまうなんてと驚愕したことも、思い出すたびにそのときの息苦しさに見舞われる。