頬を精いっぱい持ち上げて笑う香魚に、けれど朱夏は曖昧に笑い返すことしかできなかった。

 前にも聞いたな、そんな台詞……。

 その主は、今も絶対に自分が誰かに――自分より一センチ背の高い朱夏に想いを寄せられていることになんて、ちっとも気づいていないに違いない。もしかして、なんて、頭の隅を掠めることすらないんだろう。


 きっと香魚ちゃんは私に自分を重ねているんだろうな、私が香魚ちゃんに自分を重ねているみたいに。

 女子更衣室に入り、のろのろと制服に着替えながら、朱夏は思う。


 ……でも、どうしようもないじゃんか。

 重く垂れ込めるような気持ちで足を通したスカートは、ショートカットしか似合わない朱夏には、やっぱりこれっぽっちも似合わなくて、少しだけ泣きたい気分になった。



 これからどうしようか。

 次の授業を受ける湊のひょろっとした背中を眺めながら、朱夏は家の自室の、机の引き出しにしまったお守りのことを考えた。


 先週の土曜日、かねてからの約束どおり部活後に朱里と一緒に買いに行ったギンガムチェックの生地は、去年ノリで記念に買ったものと合わせて二枚になってしまった。

 しかも今年は、四苦八苦しながらもお守りを作り、バド部の湊にちなんでラケットとシャトルを模したワッペンまで、セット販売されていたフェルトで作ってしまう始末だ。