校内からは吹奏楽部のチューニングの音を筆頭に、別棟の教室で部活をしている料理部や手芸部の女子たちの楽しそうな笑い声が、絶え間なく廊下を伝って詩のもとまでやってくる。

 こっちは楽しそうでなによりだ、私はちっとも楽しくないけどね!


「……フン」

 そうして、もうひとつ鼻白んだ息を吐き出したところで、硬派らしいといえばらしいけど、今どきの男子高校生にしては、ちょっと硬派すぎやしないだろうか、と詩は思う。


 もしかして好きな人がいる? 他校にもう彼女がいたりする?

 そんな話はいくら聞き耳を立てても聞こえてきたことはなかったけれど、普段の様子を思い起こすと、もし仮に彼女がいたとしても、晄汰郎の性格なら誰にも言わない、あるいは信頼の置けるごく少数の親しい人にしか打ち明けないこともあり得るだろう、むしろそうするはずだと妙にあっさり納得できてしまうところが悔しい。


「秘密主義とか、何様だっつーの」

 だったらなんで目が合うのよ。


 一杯食わされた気分というのは、きっとこういうことを言うんだろう。チラチラと合う視線にまんまと乗せられた自分がバカバカしくて、恥ずかしくて、今日が金曜日じゃなかったら、明日は自主休校するところだ。