統吾たちは廊下に人がいたことさえ気づかなかったようで、大口を開けてまだ笑い続けていたけれど、そのときのくるりの耳には、もうなんの音も聞こえなかった。


 *


「いらっしゃい。ギンガムチェックの生地なら、そこの棚だよ。ゆっくり選んでね」

「あ、いえ……」

「ん?」

「……はい。じゃあ、ちょっとだけ」


 適当に歩いていたつもりだったけれど、二日前のことを思い出していたからか、駅へと抜ける商店街にある手芸店へ足が勝手に向かっていた。

 中へ入ると、蓮高の制服を見た店のおばさんがご丁寧にも生地が置いてある場所を教えてくれ、くるりは仕方なく、その棚の前まで足を進めることにした。


 本当は買う気なんてなかった。けれど、ただの冷やかしになるとしても、二日前の女子ふたり組や、今日の陸部の彼女も買っていっただろうその生地を、くるり自身も実際に自分の目で見てみたくなったのだ。


 どれだけの思いを込めて縫うのか、どんな思いで縫うのか。実際に生地を見たら私にもなにかわかるかもしれない――淡く、けれど切実な願いがそこには込められている。