統吾たちと一緒にいるのは、楽だし自分に合っているとも思う。それは本当だ。

 ――でも。


「ごめん、ちょっと用事思い出しちゃったから、今日のカラオケはパスさせて」

「え、くるり?」

「おい、マジかよー?」


 どうしてかはわからないけれど、今は統吾たちと一緒にいる気分にはなれなかった。口の中がパサついて、ねっとりと気持ち悪い。


「ほんとごめん。親に用事頼まれてたの、すっかり忘れちゃってて。次は行くから」


 呼び止める声に振り向き、顔の前で両手を合わせる。

 本当は用事なんてなにもない。でも、カラオケに行っても、どうせ歌いもせずに確実に猿渡と例の彼女の話になるだけだ。


「次は絶対だぞー」

 統吾の声を背中に受けつつ、くるりは廊下を歩きはじめた。ここまできてドタキャンはさすがに気まずいし、杏奈をひとりにさせてしまって申し訳なく思う。けれど、猿渡や彼女の見られてしまった居たたまれなさに比べたら、そんなの屁でもないと思い直した。