「お、気づいたんじゃね? ジャージのポケット探ってるぞ。おーい、こっちだ猿渡~」


 窓を開けるまではしないものの、そう言いながら瑞季が猿渡に向かって両手を振る。顔の横まで上げた手が左右に小刻みにピラピラ揺れて、なんだかそのままボックスステップでも踏みそうな勢いだ。

 そんな中、残りの三人も窓の内側から手を振りはじめた。彼らのニヤけきった横顔は、もう最高潮である。


 一方の猿渡は、ジャージの上着のポケットからスマホを取り出し、内容を確認すると、とたんに辺りにキョロキョロと目を走らせはじめた。

 どうやら統吾たちがどこにいるかは書かれていないらしい。ここからでもわかるくらい明らかに挙動不審な猿渡は、お守りを渡した女子が不思議そうに首をかしげる中、はっとして慌ててお守りをポケットに突っ込むと、もしかしてと思い当たったのか、顔を上げて視線を真っすぐに校舎に注いだ。


 その瞬間、猿渡の目が大きく見開かれる。

 クラスメイトに見られていた恥ずかしさや気まずさ、実際に渡されたお守りの存在が、急にリアルなものとして自分の中になだれ込んできたのだろう。なんとも形容しがたい微妙な顔でこちらを見上げる猿渡は、もう完全に体の動きが止まってしまっていた。