「あっ! 男のほうって、もしかして同クラの猿渡《さわたり》じゃね? ちょ、誰かLINEしてみろよ、びっくりすんぞー、猿渡のやつ」

「えー? ここから見てるよって?」

 いたずら小僧のようにニシシと白い歯を見せて笑う統吾の提案に、さすがの杏奈も渋い顔をする。そこまでは悪ノリできないところが、杏奈の可愛いところである。


「よっしゃ。じゃあ、俺が」

「お。やれやれ、瑞季」

 しかし瑞季が制服のポケットからスマホを取り出し、ピコピコと操作しはじめてしまっ

た。瑞季をけしかける統吾と雄平のニヤけきった笑い声が廊下に反響して消える。


「もう。やめてあげなよ~」

 そう言いつつも、杏奈の声も本心から三人を止めようとするものではなかった。さっきまでは可愛かったのに、やはり杏奈も他人(よそ)様の色恋事情への興味には逆らえないらしい。

 瑞季の手元とグラウンドの猿渡を何度となく交互に見比べながら、早く早くと急かすように踵をリズミカルに上下させた。


「おっしゃ、送ったぞ。あとは猿渡がスマホを持ってるかどうかなんだけど……」

 やがて送信を終えた瑞季が顔を上げた。瑞季の手元を覗き込んでいた三人も、再びグラウンドのトラック――猿渡に目を向ける。