「くるりは今年、どうすんの? 確か途中でリタイヤしたよな、お前も」


 再び眼球だけを向けて統吾が尋ねてきた。しかし、目が合ったのは、ほんの一瞬。統吾はまたもや天井に目を向け、のらりくらりとリノリウムの廊下を歩き続ける。

 一秒にも満たなかっただろうそれに、だから天井にいったいなにがあるの、と喉まで出かかり、けれど聞くだけ無駄なような気がしてやめる。

 代わりに、くるりは思う。不思議でもなんでもない。こいつはただの変な男だ、と。


「私は……」

 それはともかく、半眼になりつつも、くるりはあらかじめ用意しておいた台詞を言うために口を開いた。去年のしんどかった経験や統吾たちの様子を踏まえて、今年は無駄に頑張らないことに決めていたのだ。


「あっ! もしかしてあれ、本命渡してるんじゃない? まだ一週間も前だよ? ガチで気合い入ってんねー。まさに青春だぁ~」

「え、マジで? どこ、どこ?」


「ほら、陸上トラックの、あっちのほう。陸部の黒ジャの人が、みんなからちょっと離れてふたり、立ってるでしょ? それ」

「あっちってどっちだよ」


「だからほら、あそこだって!」

「はぁ?」