「秋だなあ、とか思ってたんでしょ?」

「うん。今日は剣道着で外周に行くみたいで、秋は眼福だなあって思ってた」

「なにそれ。てか、そこから見てわかるの? みんな同じ格好だし、ちょっと遠いじゃん」

「わかるよ、背格好とか頭の形で!」


 香魚の力説をよそに、ふーんと、さして興味もなさそうに遠くの山の稜線をなぞるように視線を移す優紀は、香魚の友人の中で唯一、彼女の想い人を知っている。


 一松《いちまつ》悠馬《ゆうま》――それが香魚の想い人だ。


 彼は香魚や優紀と同じ二年生で、先のとおり剣道部に所属している。出身中学も三人とも同じで、中学三年時、悠馬が蓮丘高校を受験するつもりらしいという噂を小耳に挟んだ香魚は、悠馬を追いかけるようにして、ここを受験することに決めたのだ。


 もともと蓮高を受験するつもりだった優紀には、不純な動機だと散々言われたし呆れられもしたが、だって好きなんだから仕方がない。中学時代から通算四年に渡って片想いをしている香魚には、同じ高校に通えていることも、遠くからではあるが、こうして悠馬の姿を眺められることも、奇跡に等しいのだ。