「うっせーよ、バーカ」


 すぐさま応戦した統吾が、たった今までのしおらしい態度を一変させて、くるりの机を離れていく。それと入れ替わるようにして友人の杏奈(あんな)がクスクスと笑いながら「くるり、片目だけ鬼みたいなんだけど」と前の席の椅子を借りて横向きに腰掛ける。


 そのまま足を組んだ杏奈は、なんでそれしかすることがないのとツッコミたくなるほどワンパターンであるプロレスごっこをはじめた統吾、瑞季(みずき)雄平(ゆうへい)の三人を呆れ顔で眺めながら、


「何度も同じことをやって怒られてんのに、なんで学習しないんだろ、統ちゃんは」

 さっそくアイラインの修正に入ったくるりを邪魔しないよう、反対の机に頬杖をついてバカ三人組に目を細めた。


 くるり、統吾、杏奈、瑞季、雄平の五人は、去年から同じクラスで仲がよく、全員が帰宅部なこともあって、放課後は特に意味もなく教室に残って話をすることが多い。

 話の大半は本当にくだらないことで、バイバイと言って別れた直後にはもう、なにを話していたか思い出せないくらいの軽い話題だ。