去年は初めての夜行遠足だった。

 女子は早朝から一日をかけて道のりを歩くのだけれど、ちょうど半分まで歩いたところで上りきった太陽の熱に()てられ、熱中症の症状に見舞われた。


 幸い症状は軽く、救護車の先生に助けてもらってしばらくすると体調も落ち着き、事なきを得た。けれど、あんなに死にそうな思いをしたのは、後にも先にも蓮高の伝統行事だとかいう夜行遠足が初めてだった。中学の部活もハードと言えばハードだったけれど、これはその比じゃない。


 また今年もきつい思いをしなきゃならないのかと思うと、もともと、ほとんど聞いていなかった歴史の授業がますます遠くなり、ため息の数も重みも増していく。


 ギンガムチェックって。お守りって。りんごって。アップルパイって。そんなもののために一喜一憂したり、わざわざ死にそうな思いまでして、たったひとつしかもらえないりんごを手に入れようとするなんて。

 みんな、本当によくやる。


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 「くるり、お前、今日ヒマ?」

 退屈だった授業もようやく終わり、だらだらと掃除をし、もう帰るだけだがとりあえず机にコンパクトミラーを立ててメイクを直していると、ちょうどアイラインを引いていたところに穂高(ほだか)統吾(とうご)が話しかけてきた。