「くしゅっ」

 隣で朱里が小さくくしゃみをした。ああもう、くしゃみさえ可愛いんだから。


「ちょっと話しすぎちゃったね。そろそろ乗ろっか、自転車。漕げば体も温まるよ」

「そうしよ、そうしよ」


 そうして朱里は、可愛らしく身震いして、いそいそと自転車に跨った。朱夏はそんな朱里が羨ましいような、苦笑したくなるような気持ちでサドルに腰を落ち着ける。

 朱夏もちょうど体が冷えていた。部活中にかいた汗が引いて冷えた体に再び熱を発生させるには、ふたりとも自家発電しかない。



 しばらく自転車を漕いでいると、ちょうど体がポカポカと温まってきたところで、朱里との分かれ道に差しかかった。


「土曜日、楽しみだね。じゃあ、また明日」

「そうだね。楽しみ。また明日ねー」


 手を振り合い、明日までの別れのあいさつを交わし、ゆっくりと遠ざかっていく朱里の小さな背中をほんの少しだけ見送ってから、朱夏ものろのろと自転車を走らせた。


 家に着き、制服姿のまま腹ペコの胃に晩ご飯を詰め込むと、さっとお風呂に入り、自室のベッドに仰向けに寝転がる。

 考えるのは、落ち込む姿も可愛らしい朱里のこと、湊のこと、夜行遠足のこと――赤のギンガムチェックのお守りのこと。