片手ハンドルになり、前カゴに入れているエナメル素材のスポーツバッグの重みで、自転車がぐらりと蛇行気味になった。慌ててハンドルを握り直し、不思議そうな顔で「……え、そうなの?」と尋ねる朱里に「そうでしょ」ときっぱり、はっきり肯定する。


 自分より小さい男子に恋をしてしまったなんて、いくら相手が朱里でも、そう簡単に打ち明けられることじゃない。

 第一、デカい女の恋バナなんて、ちっとも可愛げがないじゃないか。

 可愛らしいサイズの朱里ならともかく、誰が私の恋バナなんて聞きたいんだ?


 朱夏は、ふっと鼻から自嘲気味な息が漏れそうになるのをこらえ、いまだ不思議そうな顔の朱里に笑う。

 バレーをやっているときは、もう少し身長が欲しいといつも思う。大会には朱夏より大きい選手なんてゴロゴロいる。でも、女子高生としては、やっぱり普通にデカすぎる。自分でも制服のスカートのあまりの似合わなさ加減に毎朝げんなりするくらいだ。


 普通に恋をするには、やっぱり朱里くらいの身長がちょうどいいんだよなあ……。


 隣の朱里をちらりと見て、朱里の目線から見える世界を想像する。

 きっとちょっと地面が近いだろう。ちょっと空が高いだろう。


 湊のことも、ちゃんと見上げるだろう。