「あ、ねえ、そういえば、あと十日で夜行遠足だね。朱里は誰かにお守り渡す?」


 カラカラとペダルの音を響かせながら、話題を変えてみる。わざとらしいかなとは思ったけれど、それ以外に思いつかなかった。


 それに夜行遠足は、蓮高生にとって体育祭や文化祭、その他学校行事の中で一番テンションが上がる行事だ。カップル成立率はどの行事よりも高く、こんなにデカい女ではあるけれど、どうにも胸がキュンと疼く。

 この時期になると避けては通れない話題のひとつだ。


「そういう朱夏は? 同クラでバド部の湊《みなと》と仲いいじゃん。朱夏こそ、どうなの?」


 最近は落ち込んでばかりいる朱里も、夜行遠足と聞いてテンションが上がったらしい。 さっきまでは自信なさげだった顔が急に華やぎ、鋭いのか、ただ感じたままを言っているのか、朱夏の想い人の名前を口にした。


「ええー、湊ぉ?」

「うん。ぴったりだと思うんだけど」

「ないない。だって私よりチビだもん。それにヒョロいし。もっと背が高くて、がっしりした人がいいよ。筋肉欲しいな、そこは」


 心の中とは裏腹に、眉間に思いっきりしわを寄せて顔の前でぶんぶん手を振る。