〝雰囲気イケメン〟と評したのも、香魚はさすがだと内心で舌を巻いた。

 確かに悠馬は人気は高いが、特別目鼻立ちが整っているというわけではない。言われてみれば、まさに雰囲気イケメンという言葉がかっちり当てはまる。


 それからすぐに彼女たちの話題は、同じグループの子――陸上部の先輩に本命を渡したという子の話に移ったので、悠馬のことはそれっきりだった。

 漏れ聞こえてきたところによると、廊下の窓にべったりと張り付き、この一週間、ニヤニヤと気味悪くグラウンドを眺めていた先輩たちの邪魔が入ったおかげで一時はどうなることかと思ったが、どうにかこうにか、りんごをもらう約束まで漕ぎつけられたそうだ。


 それはなにより。もうすでに甘いアップルパイの香りがしてきそうだ。

 それはさておき。


「……」

「……」

「……ぷっ。ふふっ、あははっ」

「あはははっ。もうダメ、面白すぎる!」


 香魚と優紀は、ふたりでしばらく思考が停止し、しかし顔を見合わせたとたん、こらえきれずに揃って笑い出してしまった。

 ひどい仕打ちには、ひどい仕打ちが返される、といったところだろうか。