*


「三分前です。そろそろスタート地点に集まってください」と集合がかかったため、先ほど朱夏と朱里がやる気満々で駆けていったほうへ向かいながら、香魚は優紀に気づかれないよう、ひっそりとため息をついた。

 変な言い方だが、無事に嘘をつきとおせたことに対する安堵のものと、そうはいってもまだ複雑な心境に対するものと、両方だ。


 朱夏や朱里の前では明るく振る舞い、優紀の前でも前向きなことを言ったけれど、心の中はまだ、ぐちゃぐちゃで、けちょんけちょんで、ボロボロのボロ雑巾である。

 本当は今日だって休みたかった。応援してくれたふたりに事実を半分だけ報告するのも、申し訳ないし気が重くて仕方がなかった。


 でも、どんなに傷ついても時間は止まってはくれない。自分だけ歩みを止めるわけにはいかないのだ。

 スタートに向かって足を進める周りの子たちのように、これから一日がかりでゴールの南和を目指して歩くように、時間も足も、もう止まれない。


「……ねえ、香魚。無理だったら帰ってもいいんだよ? こんな状況でスタートなんて、やっぱりどう考えても酷《こく》すぎるよ……」