「ドンマイ、ドンマイ、一本で切ろう!」

 再びお腹から声を出し、滴る汗をTシャツの肩口で拭う。隣では朱里がすっかり委縮しきった様子で攻撃に転じた場合の攻撃パターンを必死に組み立て、サインを出している。


 さっきからこんな展開が続いていた。

 朱里の上からスパイクを狙われるのはわかりきっているのに、それに対応できない自分が、ひどくもどかしくて仕方がない。


 チーム最高身長なのに。名前に同じ〝朱〟が入っているのに。小さくて可愛い朱里を騎士《ナイト》のように守るのが私の役目なのに。

 ……全然なにもできない。


「朱里、あと一回サーブ権がくればローテが回るから。次は朱里のサーブでしょ。さっきから声出てないよ! 元気出していこう!」


 せいぜい、そう声をかけるのがやっとだ。そんな自分に朱夏はまた、胸の奥に焦燥感とも焦りとも似た感情をそっと溜め込む。

 それでも朱夏のその声ではっとしたように朱里が頷いてくれる。それと同時に短く笛が吹かれ、サーブが打ち込まれる。


「朱夏!」

「任せて、朱里!」


 しっかり朱里に返ったレシーブからのトスを受けた朱夏は、気持ちいいスパイクがなかなか打てていないフラストレーションや、狙われ続ける朱里の逃げ出したくなるような気持ちを振り払うように、ネットの上から思いっきり腕を振り下ろした。