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 スタート前にトイレに行った杏奈待ちのため、こっそりジャージの上着のポケットに忍ばせていたスマホを手持ちぶさたでいじっていると、くるりの耳にふと話し声が聞こえてきた。

 そのまま耳をそば立てていると、声の主たちは、どうやら一昨日、悠馬に本命お守りを渡していた隣の隣のクラスの彼女と、その友達――前に駅前商店街を男子と歩いていた、片割れの子のようだった。


「……ねえ、私、不自然じゃなかった?」

「大丈夫だよ。朱夏ちゃんも朱里ちゃんも、頑張ったねって言ってくれたじゃん」

「でも、昨日の夜、泣きすぎちゃって、まぶたがすごいことになってるし、笑顔も引きつってたんじゃないかって心配で……」


 そう不安を口にした彼女に、くるりは、やっぱりたった二日じゃ引きずっちゃうのも無理はないよな、と胸が痛んだ。

 特に知り合いでもないので助言は避けたけれど、やっぱり悠馬はやめたほうがいいと言っておくべきだったんじゃないだろうか、と今さらながら申し訳ない思いに駆られてしまうのだ。