「ごめん、なにか言ってた?」

「上位を目指してる子は前のほうに並べ、って先生が。今、ちょうどスタート五分前なんだって。もちろん朱夏も目指すでしょ? 早く行かないと、いい場所取られちゃうよ」

「おお、それは急がないと」


 確かに、我に返ると同時に戻ってきた喧騒の中には拡声器で拡声された教師の声が響いている。

 運動部に所属している生徒、みんながみんな上位を目指しているわけではないけれど、朱夏と朱里の場合は、こういうイベントが好きなので、より楽しむために去年は一年生ながら一列目の先頭に陣取ってスタートした。無論、今年もそのつもりである。


「香魚ちゃん、優紀ちゃん。ごめん、そういうわけで、うちら行くね。こういうの、実はふたりとも大好きなんだよね!」


 言うが早いか、ひしめき合う生徒たちの間を縫って駆け出す朱夏の背中に、朱里の「もう~!」という苦笑交じりの声が追いかけてくる。


 でも、見失われることはないはずだ。

 だって私は普通にデカい。スカートはびっくりするくらい似合わないけど、ショートカットならけっこう自信があるただの女子だ。湊より一センチ背は高いけど、それでも恋しちゃったんだから、もう開き直るしかない。