今回は怖気づいてしまって渡せずじまいだったけれど、晴れ晴れとした香魚の顔を見ていると、私もちゃんと頑張らなきゃな、という気持ちが体の奥のほうから湧いてくる。


 結局、朱夏には、湊が本命お守りをもらったかどうかは、わからなかった。優紀にご執心の朝倉のように、本命を打診している相手がいたのかどうかも、わからない。

 でも、渡せないまま後悔するよりは、渡して後悔したほうがいいんじゃないかと今は思う。香魚の晴れやかな笑顔が、そうさせてくれるのだ。


「うん。そのときは応援してね!」


 にっこり笑って頷くと、香魚の表情がぱっと華やいだ。彼女の隣の優紀も、自分の隣に並んでいる朱里の顔も、みな一様だ。

 そのときふと、朱夏の頭に名案が閃いた。


 もし湊が完歩したらもらえるりんごを持て余していたら、譲ってもらうことって、できないかな? お菓子作りなんて似合わないだろうけど、夜行遠足お疲れ様ってことで一緒に食べたり……できないだろうか。と。


 いや、虫がいい話か。うーん、でも……。

 そうしてひとり、名案ならぬ迷案に首を捻っていると、ふいに朱里にジャージの二の腕の部分を引かれて、はっと我に返った。