十月といっても九月の余韻をまだ存分に引きずっているような気持ちのいい秋晴れの空のもと、前日の男子の出発に続き、今朝は女子の出発時刻が刻々と差し迫っていた。


 早朝五時の空気は、言うまでもなくひんやりと冷たい。しかし日が昇りはじめ、朝靄《あさもや》もしっとりと土に沁み込んだ今は、天気予報のとおり空は晴れ渡り、薄い鱗雲《うろこぐも》がゆったりと上空を流れる下をスズメが駆けている。


 まさに夜行遠足日和である。

 今頃、男子たちもこの空の下を歩いているだろう。一晩歩き詰めで極限まで削られた体力も、朝のまっさらな空気を肺いっぱいに吸い込めば、いくらか回復するかもしれない。


     *


「あ、いたいた、香魚ちゃん、金曜日はどうだった? お守り、もらってもらえた?」


 三学年、総勢二百名近い女子生徒がひしめくスタート地点の学校のグラウンドの中から香魚の姿を探し出した朱夏は、おはようのあいさつもないまま、優紀と並んで集合の合図を待つ彼女のもとに駆け寄っていった。


「こら、勝手に行かないの」

 後ろから朱里の窘める声がするけれど、普通にデカいのが取り柄なだけあって、まあそう簡単に見失われはしないだろう。