「……」

「……」

 ふたりとも、しばらく声が出なかった。

 なにをどう言っても、無意味な気がした。


 つい数分前までの夢のような出来事の余韻に少しでも浸っていたくて、でも現実は気持ちもお守りもあっさりごみ箱行きで。

 どこからどう、この事実を処理していったらいいのか、ふたりとも、すぐにはわからなかった。


「――さ。行こっか、優ちゃんっ」

「うん……」


 やがて深く息を吐き出した香魚は、戻ってきたお守りを鞄に入れると、今にも泣きそうな顔をしている優紀に努めて明るく言った。

 履き替えの途中だったローファーに両足を差し込み、軽くつま先をトントンとすると、まだ内履きを脱ぎかけたまま俯いている優紀に「置いていっちゃうよー」と笑う。


 ローファーに履き替えてきた優紀と並んで外に出ると、あのときと同じように南向きの校舎の右側から茜色の西日が差していた。白い壁に反射してキラキラと光の粒を撒きこぼす西日は、相変わらず綺麗で眩しい。