願わくば、前に朱夏に打ち明けたように、できればお返しのりんごも、もらいたい。アップルパイを作って一緒に食べたい。

 でも、その夢が叶おうと叶うまいと、香魚はもうどちらでもいいような気がしていた。


 悠馬の競争率は高い。悠馬のほうにだって好きな子がもうすでにいるかもしれない。

 けれど、それは以前からわかっていたことで、嘘か本当か、同じ剣道部の一年の女子マネといい感じらしいという噂も、つい先日の優紀からの情報で耳に入っている。


 ただ、そんな状況の中でもやりきったということだけは事実だ。

 清々しいまでの達成感と心地よい倦怠感は香魚だけのもの。自分の四年間をあの数分間ですべて出しきれたことこそが、香魚の最大の誇りなのである。


「……優ちゃん。なんか私、もしこれからつらいことがあっても、今日のことを思い出したら、なんでも頑張れる気がする」


 お互いの涙も徐々に引き、抱き合っていた体を解くと、香魚はまだ潤んでいる優紀の瞳を見つめて言った。考えるより先に言葉が自然と出てきたような、そんな感覚だった。