「朱夏《しゅか》!」


 セッターの朱里《あかり》からの苦しいトスに応えるように、大垣(おおがき)朱夏も苦しい体勢からのアタックを渾身の力で打ち込んだ。ネットに大きく当たってバウンドしたバレーボールは、幸運なことに向こうコートへと落下をはじめ、両足で続けざまに着地をしたときには、とん、と軽い音を立てて体育館の床を跳ねた。


「ごめん、朱夏、ありがと」

「いいよいいよ」


 顔の前でごめんとジェスチャーしながら申し訳なさそうに謝る朱里に、朱夏はにっかり笑って彼女の背中にぽんと手を当てる。華奢で小さい背中を自分の腕力で痛めつけてしまわないように、その力加減も忘れずに。


「もう一本!」


 中腰姿勢を保ちながらお腹から声を出し、士気を高めるためにパンパンと手を叩く。なんとか得点が決まってほっとした様子だった朱里も、すぐに気を引き締めた顔で小さな背中の裏で攻撃のサインを出しはじめた。


 今は紅白戦の真っ最中だ。


 一年二年の部員が入り乱れて組まれたチームは、インハイ予選で敗れた三年生が引退してからまだ三ヵ月弱では、どちらもバタバタする感がある。