でも、それでも香魚は、マイナスになってもいいから頑張ることに決めたのだ。

 悠馬を想ってきた四年、その時間はけっして無駄ではなかったけれど、なにも頑張ってこなかった自分の青春は、きっと無駄にした。


 だから――。


 すると、すーっと優しい手つきでお守りが手から抜き取られた。はっとして顔を上げると、悠馬が香魚を見て少し笑っている。


「っ!?」


 そのとたん、香魚は悠馬の目が初めて自分に注がれていることに急激に頬が火照りはじめた。

 でもそれも無理はない。この四年、こっそり後ろ姿や横顔を見つめてきただけなのだから、いざ真正面から顔を合わせると、なにをどうしたらいいのか頭の中が一瞬で吹き飛び、わけがわからなくなってしまう。


「これ、ありがとう。てか、知ってるよ、小松さんのこと。クラスは一緒になったことはなかったけど、同じ中学だったんだから、わかる、わからないの次元じゃないでしょ」


 そんな香魚に向かって、悠馬は当たり前のことを口にするような調子で言う。

 気持ち悪いとも、なに言ってんだこいつ、とも思っていないような、サラサラと心地いい声が香魚の鼓膜をそっと震わせ、脳に伝達する。