お守りを持つ手が異様に震える。膝もガクガクと震えて、まるで立っている気がしない。けれど、あともうちょっとだ。ここまでできたのだから、やりきるしかない。

 香魚はぐっと顔を上げる。


「あの、私のことわからないと思うけど、同じ中学だった小松香魚です。中学時代、一松くんにペンを拾ってもらったことがあって、それで、それで……。――や、夜行遠足、頑張ってください。応援してます!」


 言いきるなりガバリと直角に腰を折った香魚は、どうか受け取ってください、と心で念じながら震える手を必死に悠馬に伸ばす。

 言いたいことの半分も言えなかったし、きっとなにを言っているんだと思われた。もしかしたら、ずっと見られていたなんて気持ち悪いと思われてしまったかもしれない。


 だって、中学のときのたったそれだけなのだ。

 悠馬から見れば、たったそれだけのことを勝手に思い出にされて、何年もひとりで盛り上がられていただなんて、一歩間違えれば恐い女子である。


 もし香魚が逆の立場だったら、引くどころの騒ぎじゃない。そんな自分に香魚は四年もドン引きし続けてきた。

 それに、この待ち伏せも、夜行遠足前だから成り立つけれど、普段だったら恐怖だ。