「……香魚」

「うん。そろそろ来る頃だね」

「頑張って」

「うん」


 優紀と向き合い、香魚はよりいっそう、竹刀と剣道の面を模して縫い付けたワッペン付きの本命お守りをぎゅっと握りしめる。


 悠馬はたいてい、ひとりで部活に向かう。剣道部全体では二十人はいるのに、彼のクラスには剣道部員がいないためだ。

 ちなみに香魚のクラスにもいない。ほかのクラスには、ちょこちょこと部員が散らばっているようだけれど、男子はきっとこういうものなのだろう、朱夏と朱里のように連れ立って部活に行ったりは、なかなかしないみたいだ。


「――あ」


 そうこうしていると、見張り役の優紀が声を上げ、パタパタと教室に入ってきた。どうやらターゲットのお出ましのようだ。


 剣道着姿も格好いいけれど、制服姿も申し分なく格好いい悠馬は、たとえみんな同じ制服を身に纏っていたとしても、香魚にはすぐにわかる。

 体育のときのジャージも然り。剣道着姿で外周に向かうときと同じ原理が発動する。頭の形や背格好だけで、いつだって、どこでだって、すぐに見つけられるのだ。