いよいよだ、いよいよ今日だ。少女漫画やケータイ小説のヒロインが頑張っていたように、今日は私がリアルに頑張る日だ。

 香魚は朝からそう自分に気合いを入れ、本命お守りを渡すには一番の狙い目だと噂される放課後を今か今かと待ちわびていた。


 思えば、去年のこの時期にワクワクすることなんてなかった。

 話しかける勇気もないくせに無駄にドキドキしたり、自分は渡せもしないのに誰かにお守りを渡されたらどうしようと無駄に気を揉んだり、ワクワクとは程遠い気持ちしかなかったように思う。


 そして、持ち歩くだけで精いっぱいのお守りを見るたび、どうせ私なんて、という気持ちになる。

 でも、今は違う。私なんてこの程度だと諦めきっていた頃とは正反対の心境である。


 ギリギリで変われて本当によかった。

 香魚は高鳴る鼓動を刻む心臓を制服の上からきゅっと掴み、ふぅとひとつ息を吐く。


 ワクワクしているけれど、もちろんそれ以上に緊張しているし、なんなら今朝から吐き気が止まらない。授業も上の空で、時間の感覚だってまったくない。

 でも、ようやく自分から動こうと思えるようになったことが、香魚には、なにより嬉しいことだった。