そのとたん、教室中にキャーキャーと甲高い声が響き渡った。詩は直後から友人たちに代わる代わる、もみくしゃにされる。


 とても清々しい気分だった。言えば大げさだと笑われること必至だろうけれど、例えるなら、生まれ変わったような。

 きっと、計算なんかしていたって上手くいかないことを教えてくれた晄汰郎のおかげだろう。晄汰郎に作り変えられた体の内側から新しい自分がどんどん生まれてくる。


「で、どっちから告ったの?」

「返事はなんて言ったの?」


 お決まりの尋問タイムに入り、矢継ぎ早に飛ぶ質問に答えながら、詩は考える。

 今日の帰りは、このとおり遅くなるだろうから、もしかしたら晄汰郎と初めて一緒に帰れるかもしれない。そうしたら、なにを話そう、どんな話をしよう、と。


 そのとき、熟れたりんごみたいな茜色が差しはじめた秋空のもと、グラウンドのほうからひときわ大きな野球部員の声が聞こえた。

 今日もゴリラ姿勢でノックを待っているだろう晄汰郎の声だ。詩はみんなにもみくしゃにされながら、こっそり頬を緩ませた。