お守りは渡さないくせに、いつもじっと部活の様子を見られていたことも、晄汰郎にとって混乱する原因のひとつだったんだろうと今ならわかる。


 詩は連日、学校帰りのいつも通るコースのフェンス越しから、晄汰郎の部活の様子をしばらく眺めてから帰っていたのだ。火曜日は珍しく、普段は正門から帰っているはずの香魚と会い、あいさつ程度の言葉を交わしたけれど、それ以外は無言で、ただ練習の様子を一定時間眺めて、そして駅へと続く坂道を下っていくだけだった。


 ストーカーっぽくて自分でも自分の行動が気持ち悪かったけれど、詩はどうしてもやめられなかった。……本当に申し訳ない。


 そういえば香魚は、どうしてあの日は裏門のほうから帰っていたのだろうか。

 いつも一緒にいるはずの優紀の姿も目なかったし、茜差す夕暮れのグラウンドを見つめて、少し泣いているようでもあった。とっさに気づかないふりをしたけれど、あのあと彼女はどうなっただろう。少しだけ気がかりだ。


「――じゃあ、答え合わせをしようか」


 そう言って再び顔を覗き込んできた晄汰郎にはっと我に返った詩は、心持ち赤く見える彼の顔を見て、渋々と首を縦に振った。