はぁーと大きなため息が聞こえて、続いて坊主頭をじょりじょり撫でる音も聞こえる。

 どうやら晄汰郎は、相当イライラしているらしい。

 晄汰郎の言うことも二転三転しているけれど、詩の言っていることだってそれ以上に二転三転しているのだ。いまだに俯いたままの詩にも、彼の周りの空気がピリピリと張り詰めていることが嫌でも伝わった。


「もういい。行くわ」

「……っ」

 そのとたん、空気が動いた気配がした。詩はさらにきつく唇を噛みしめ、地面のなんでもない一点を見つめて必死に気を保つ。


 正確には、渡す気になれなくなったんじゃなく、渡せなくなったのだ。

 晄汰郎には計算は効かない。でも自分は計算しかできない。なんの計算もなくストレートに想いをぶつけるには、詩には本命お守りは重すぎるし、青春っぽいことをしたい一心で身に纏った〝いい子〟の鎧も、もう脱ぎ方もわからない。


 実は嫌われているという可能性も考慮した結果、嫌いなタイプの計算高い女子からお守りを渡されても処分に困るだけだろうと、この三日で――いや、先週の金曜日から、詩はすっかり自分に自信をなくしているのだ。