まずい、非常にまずい。なにがまずいかって、この私から計算を取ったら、あとにはいったいなにが残るんだ? って話だ。


 詩は、まるで睨《ね》めつけるかのように眼光鋭く見下ろしてくる視線に耐えきれなくなり、首を引っ込め、とうとう俯いた。

 まだギリギリ夏服のセーラー服の襟首を、ちょうど吹いた秋風がさーっと撫で、少しだけ肌寒い。


「で、くれないの? それ」

「いや……その……」


「お前さ、なんなのマジで。散々期待を持たせておいて今さらそれ? お守りなんてただの願掛けじゃん。くれる気があるんだったら早くちょうだいよ。部活も行かなきゃなんないし、もう明後日が本番なんだけど」

「……う」


 手には、今週中、ずっとスカートのポケットに入れて持ち歩いていた本命お守りの感触。どうにも気まずくなって思わずスカートの上からそれを触ってしまうと、目の前の男子はひどく焦れた様子でそう言った。


 受け取ってもらえるまで何度でも渡すつもりが、渡すまで何度でも「くれ」とせがまれるようになって、早三日。

 相手はもちろん、憎きゴリラ坊主の晄汰郎だ。月曜日のあの、どこか切羽詰まったような様子からは一変、今、詩の目の前にいる晄汰郎の態度は、ふてぶてしいこと、この上なかった。