もし彼女ができたら、そのときは潔く諦めよう。いや、そうできるかどうか自信はないけれど、いつまでも引きずるなんて、やっぱりデカくてがさつな私のキャラじゃない。

 ま、失恋したって死にはしないしね。



「じゃあ、紅白戦するよー!」


 練習メニューが進んでいき、やがてかかったキャプテンの指示に「はいっ!」と返事をした朱夏は、スポーツドリンクのボトルを脇に置くと、すっくと立ち上がった。

 今だけは、もう湊は見ない。目指すは公式戦での一勝である。そのためには、こんなところで調子を落としている場合じゃない。


 私はチームで一番身長が高い。

 だから攻守の要だ。

 自分の背が低いことを気にして落ち込む朱里のために、今日は絶対に一本だってふかさない。気分はさながら姫を守る騎士《ナイト》である。


「一本!」

 お腹から声を絞り出すと同時に、向こうコートからフローターサーブが打ち込まれた。


「朱里!」

 綺麗な弧を描いてセッターの朱里に返ったレシーブを横目に捉えると、朱夏はすぐさま大きく弾みをつけて助走のステップを踏みながら、手を上げて朱里のトスを呼んだ。