どうやら朱里も今日はツイていない日だったらしい。

 投影機やスクリーンの掃除を手伝わされていたようで、生物準備室へ向かう間中、朱里は何度も「ほんっとツイてなかったよー。あんなの、たまにしか使わないんだからさー。全然埃も付いてなかったし」と繰り返し、可愛らしく頬を膨らませていた。


 無事提出を終えると、部室でジャージに着替えて体育館に向かった。

 キャプテンに揃って遅れた理由を話し、周回遅れでコートの周りをひたすら走るアップの最後に加わる。


「……?」

 ふと視線を感じてそちらに目を向けると、ラケットを小脇に挟んだ湊が、顔の前で手を合わせ、しきりにゴメンと謝っていた。

 それにううんと首を振り、キャプテンの「蓮高ー、ファイ!」のコールのあとに、みんなと一緒に「オー!」とレスポンスを返す。


 ……ごめん香魚ちゃん、せいぜい私はここまでが限界みたいだよ。だって、今の関係を壊そうとは、どうしても思えないんだ。

 このままでいいって思っちゃうんだよ。いくら様子が違うことに気づいてもらえても、そこに踏み込まれたら、ちゃんと告えるかどうかわからない。それになにより、湊の女友達的なポジションが一番安心してしまうんだから。