……いいなあ、香魚ちゃんは。今までの自分を変えようと思えるきっかけが掴めて。


 この日もやっぱり、授業後にジャージから制服に着替えたときのスカートは、朱夏の目にはひどく不似合いなものに見えた。

 いっそ男の子に生まれていたら、湊とは親友になれたかもしれないのに。そんな、どうにもならないことを考えては、何度だって出てきそうなため息を必死に飲み下した。


 *


 放課後。


「大垣、橋本知らない? さっきからずっと探してんだけど、全然見つからねーのよ」


 ひとりで部活に行く準備をしていると、教卓の前で生物の課題ノートの提出を促していた湊が、そう言って話しかけてきた。

 そういえば、今日の日直は湊だ。さっき同じ日直の子と、日誌を書くのがいいか、クラスぶんのノートを集めて提出するのがいいかをじゃんけんで決めていた。


 どうやら負けて面倒くさいほうを割り当てられてしまったらしい湊は、まだ提出がなされていない朱里のぶんのノートをご所望のようである。

 体育のときも本気スマッシュを打ち返されていたし、今日の湊はツイていない日なのかもしれない。その上、部活にも遅れてしまったら、さすがにけっこう不憫である。