「……そんなの、まだわかんないよ」


 そう言いつつも、優紀はしっかり朝倉くんを意識しているらしい。引くどころか、ますます赤みが差していく頬が、その証拠だ。


 朝倉くんは、なにかにつけて優紀にちょっかいを出してくる、いわば小学生みたいなクラスメイトだ。お調子者でムードメーカー、いつもうるさいし、よく食べる。そんな性格のせいで三枚目キャラに見られがちだが、背もそこそこ高くて、実は顔もいい。


 事あるごとに優紀にちょっかいを出す朝倉くんを見るにつけ、もしかしたらそうなのかも、と香魚は密かに思っていたのだけれど、まさか実際もそうだったなんて。

 なんて可愛いんだろうか、朝倉くんは!


 悠馬に四年も片想いしていることなど、すっかりどこかへ吹き飛び、もう香魚の頭の中は、これからはじまるであろう優紀と朝倉くんの恋の行方にかかりっきりだ。


「あはははっ!」


 そのときふいに、前を通りかかったクラスからどっと笑い声が起こった。男子と女子が数人ずつからなるその笑い声は、香魚の中での放課後を演出するもののひとつ――特に意味もなく教室に残って友人たちとだべる生徒のものだった。男女とも楽しそうに笑い声を上げ、パンパンと手を叩く音も聞こえる。