「ん?」

「どうした、くるり」

「ちょっと……行きたいところができちゃって。今からそっちに行ってもいいかな」


 ほぼ同時に声を上げた杏奈と統吾の顔を交互に見て、くるりは精いっぱい、申し訳なさそうな顔を作って笑う。

 心臓にも冷や汗が滲んでいるような気分だった。やんわりとした言い方ではあるものの、要するに帰りたいと言っているのだ。杏奈や統吾の次の言葉次第では、もしかしたら、明日からはもう話しかけてもらえなくなってしまうかもしれない。


 そういう人たちではなさそうだったから、くるりも安心して付き合ってきたけれど、本当はどう思っているかは、わからない。

 だから怖い。ものすごく、ものすごく怖い。


 まるでロシアンルーレットをしている気分だ。心臓の冷や汗がダラダラ流れる。

 でも。


 ――置いてきてしまったものを拾いに行きたい。まだ見つかるかもしれない。そうしたら、もしかしたら〝なにか〟わかるかも。


 その気持ちだけは、もう揺るがなかった。