その全力をもっとほかのことに使ったらいいのに、と思うのは、いまだ体から体育会系が抜けきっていないからだろうか。

 憧れていた自由な放課後を満喫しているはずなのに。抑圧の反動を今、めいいっぱい感じているはずなのに。夜行遠足がいよいよ近づいてきてからというもの、くるりの心の中には、私はこれでいいのかという疑問や迷いが重く鉛のようにのしかかっている。


「それじゃあ俺らは、六十キロも歩かなきゃなんねーじゃん。死ぬ死ぬ、そんなの!」


 統吾が瑞季や雄平と顔を見合わせ、顔の前でオーバーにぶんぶんと手を振る。

 それだけ元気なら、完歩だって余裕そうである。


「いいじゃん。統ちゃんたちは六十キロくらい歩け。そんなに元気なら余裕でしょ」

「おい杏奈、俺らを見くびってもらっては困る。運動なんて体育以外、全然やってないんだぞ。ほかの男どもと一緒にすんな」

「そうだぞ杏奈、俺らはひ弱なんだぞ」


 しかし杏奈はしれっとしたもので、そんな彼女の冷たい言い草に、瑞季と雄平がすかさず自分たちにフォローを入れる。

 彼らの横では統吾が腕を組んで仰々しく頷いていて、まるでどこかの社長のようだ。まあ、埃っぽいソファに座る社長なんていないけれど。