「ねえ、さっきの子さぁ、うちらのことを見て、ニヤッと笑ってかなかった?」


 杏奈がそう言ったのは、カラオケ店に着いてから、だいぶ経った頃のことだった。

 先週末、急にドタキャンした埋め合わせ。

 統吾たちはそのあと、普通にカラオケに行ったそうだけれど、みんな口々に「くるりがいないとイマイチ盛り上がらないんだよね」なんて言って、くるりをおだて、火曜日の今日、五人連れ立ってここに来ている。


「あ、それ、俺もちらっと見えたわ。怠惰な俺らに同情? (あわ)れみ? みたいな?」


 さっきというか、もうけっこう前のことなのに、なにを指しているのかすぐにわかったらしい統吾が、そう言って杏奈に同調する。


 長年に渡る営業のおかげでタバコの匂いと埃っぽさがすっかり染みついて取れなくなっている、駅前商店街の中にある古いカラオケボックス。

 その一室の、端っこがところどころ破れているソファにどっかりと座って背中を預けていた統吾は、直後、ニヤッと。学校の廊下ですれ違った彼女の顔真似なのだろう、口角を歪に持ち上げて笑顔を作った。