「……」


 少しだけ振り返ると、詩はまた野球部をじっと見つめていた。

 彼女の視線の先にいるのは、いったいどんな彼氏なんだろう。

 けれど今の香魚には、野暮な詮索をするより、やらなければならないことがある。今日は火曜日、金曜まではあと三日しかない。


 明後日はまた体育で朱夏ちゃんたちと一緒になるし、そのときに話を聞いてもらったお礼と、頑張ることにしたって報告しよう。

 大丈夫。ちゃんと渡せる。渡してみせる。


 何度も何度も、そう強く自分に言い聞かせながら、香魚は駅と駅前商店街へと続く坂道を、ぐっと顔を上げて下っていった。

 ふと見上げた空には、とんぼの群れ。今週末は夜行遠足だ。秋はいよいよ深い。