溢れる涙を何度も何度も手の甲や指の腹で拭って、香魚は嗚咽混じりに呟く。

 それでも香魚は、時間を無駄にしたとは思っていない。片想いの期間が長ければ長いほど、たくさんの美味しい妄想もできたし、なにより一番は、失恋せずに済んできた。


 でも、失恋はしなかったけれど、それだけだ。

 それ以上でも以下でもなく、そこにはただ〝失恋はしなかった〟という事実があるだけ。ほかには自分でもびっくりするほどなにもないし、むしろあったら、なんでもいいから示してもらいたいくらいだ。


「……ありったけの勇気、かき集めてみようかな。じゃない、かき集めよう」


 今年もしっかり鞄に忍ばせて持ち歩いている、悠馬への本命お守りを取り出し、両手で包み込むと、胸の前できゅっと握った。

 今年も会心の出来だった。せめてもの慰めに持っていたけれど、男子の歩く距離にちなんで105回『碁石到着』と紙に書いたし、もしものときのための絆創膏も、カロリーになる飴もチョコも、もう入れてある。


 本当にあとは渡すだけなのだ。渡しさえすれば、ほかにはもうなにもいらない。


「よし、金曜日。金曜日に渡そう」