押せ押せ朝倉、ファイト朝倉。

 心の中で朝倉くんにエールを送ると、香魚はベランダから教室の中に戻り、自分の鞄だけを肩にかけてさっそく帰ることにした。


 教室の中には、まだ優紀と朝倉くんの鞄が残っている。

 ふたりが取りに戻ったとき、まだそこにいるなんて、そんな野暮なことはできますまい。いくらなんでも空気を読まなさすぎるし、鉢合わせたら、みんな気まずい。


 わかってます、わかっていますとも。

【私のことは気にしないで。先に帰っておくね】と優紀に返事をしながら、男女五人グループが廊下の窓からグラウンドを見下ろしている後ろを静かに通り過ぎる。

 よく見る顔だけれど、一度も話したことはない。でも、隣の隣のクラスなのは知っている。ぱっと人目を惹くような、華やかなグループだ。


 グラウンドには部活中の生徒がいるだけなのに、いったいなにを見ているんだろう。そうは思ったけれど、香魚は特に気に留めることもなく、にまにまと頬を緩ませる。

 これで付き合いはじめたら、嬉しい。


 自分の恋と重ねているのは、なにも朱夏だけではない。優紀や、優紀に想いを寄せている朝倉くんのことも自分と重ね、そして、せめてみんなは私みたいにならないで頑張ってね、と。香魚はそう思っているのだ。