そういうわけで、香魚は今日も悠馬の見目麗しい剣道着姿を眺めながら、一緒に帰るため、優紀が戻ってくるのを待っている。

 ――のだけれど。


「……うそ、まじで……?」


 スマホの画面がLINEメッセージの受信画面に切り替わり、タップして確かめると、そこには多分にスタンプを盛り付けて申し訳ない気持ちを表してはいるものの、はっきりと【ごめん、一緒に帰れなくなっちゃった】の一文があった。

 なぜ? と思っていると、続けざまに優紀からメッセージが入る。


【どうしても一緒に帰りたいって泣きつかれちゃって。断るのも疲れるから、今週いっぱいはそうすることにしたの。勝手に決めてほんとごめんね。待ってもらってたのに、ほんっっっとゴメン! このお詫びは必ず!】


「な、なんと……」

 思わず、ぽぅ、と熱っぽい息が漏れる。


 いったいどうするつもりなのかと思っていたけれど、どうやら折れたのは優紀のほうだったらしい。

 迷惑そうにしたり、酷評を下したりもしたものの、はっきりと何度も好意を伝えられれば、人の心は動く。なんやかんやと、ほだされてしまいつつあるのだろう。


 たとえ自分のタイプではなくても、だんだん素敵に見えてくる。格好よく見えてくる。

 恋ってけっこう、そんなものだ。