その、人生で初めての大きな挫折とも言える思い出が根底にある限り、香魚はどうしても積極的になりきれないのだ。その後の人格形成を大きく左右してしまうような、そんな自分史上最大のトラウマの誕生だった。


 それ以来、男子と話すことも苦手になったし、ほかの子たちとも、なかなか積極的に関わり合いになれなくなってしまった。初恋の予行演習と言うにはあまりにもインパクトが強すぎたそれは、ただただトラウマとして香魚の心の奥底に今もしつこく根付いている。


 ただ、優紀だけは違った。

 世の中には、いくら頑張っても、どうしても合わない人間が一定数いる。それと同じように、性格は正反対と言っていいほど違う香魚と優紀だが、それでもふたりには根源的に合うものがあるのだ。

 そうでなければ、中学の頃からずっと一緒にはいまい。こんな面倒くさい性格を知ってもそばにいてくれる優紀は、香魚にとって何物にも代えがたい存在なのである。


 本命が欲しいと連日打診されるくらいだから、顔面レベルも上のほうだし、香魚を見放さないことからもわかるように、性格もとってもいい子だ。優紀は香魚の自慢なのだ。