渡すにしろ、渡せないにしろ、三年間本命お守りを作り続けるだろうことだけは、入学した当時から漠然と思っている。こういうところだけ、香魚は妙に頑固者なのだ。それをわかった上で誘ってくれた優紀に感謝である。
「そっちに行くから、ちょっと待ってて」
そう言って踵を返す香魚の背中を、緩い秋風が撫でる。教室に入ると、すでに自分の鞄を肩に下げていた優紀が、香魚のぶんの鞄を差し出してくれた。それを「ありがとう」と受け取り、ふたり並んで教室を出る。
校舎のあちこちからは、吹奏楽部の楽器の音や、教室でだべっている生徒の笑い声、部活に精を出す野球部やサッカー部などの野太い声に混じって、テニス部女子の高い声も校舎の分厚い壁をすり抜けて響いてくる。
混じり合って、溶け合って、ひとつの音、ひとつの空間。剣道部が外周から戻ってくれば、彼らの声や竹刀の音も、じきにこの空間の中に溶けてひとつになるだろう。
香魚は一日の中で、この時間が特に好きだった。なにがというわけではないけれど、なんとなく、ああ、私も女子高生をやっているんだなあ、という気がしてくるのだ。
「そういえば、なんで私は優ちゃんを待ってたんだっけ? 先生に用事でもあった?」
「そっちに行くから、ちょっと待ってて」
そう言って踵を返す香魚の背中を、緩い秋風が撫でる。教室に入ると、すでに自分の鞄を肩に下げていた優紀が、香魚のぶんの鞄を差し出してくれた。それを「ありがとう」と受け取り、ふたり並んで教室を出る。
校舎のあちこちからは、吹奏楽部の楽器の音や、教室でだべっている生徒の笑い声、部活に精を出す野球部やサッカー部などの野太い声に混じって、テニス部女子の高い声も校舎の分厚い壁をすり抜けて響いてくる。
混じり合って、溶け合って、ひとつの音、ひとつの空間。剣道部が外周から戻ってくれば、彼らの声や竹刀の音も、じきにこの空間の中に溶けてひとつになるだろう。
香魚は一日の中で、この時間が特に好きだった。なにがというわけではないけれど、なんとなく、ああ、私も女子高生をやっているんだなあ、という気がしてくるのだ。
「そういえば、なんで私は優ちゃんを待ってたんだっけ? 先生に用事でもあった?」