しかし晄汰郎は、嘲りを隠そうともせずにそう言い、にやりと笑った。そのまますっと詩の脇を通って先に教室に入っていってしまう。

 その後ろ姿は普段と変わりないように見えて、しかしとても興醒めしているし、怒ってもいる。詩にはそれがわかる。


 詩のほうが先に空き教室を出たのに、少し立ち止まっていた隙に晄汰郎に先を越されてしまった。

 自分でもなんてひどいことを言ったんだろうとは思うけれど、そこまでして背中で語らなくてもいいのではないだろうかと詩は思う。


 こっちは十分、自覚済みなのに。


「おーい、宮野も早く教室に入りなさーい」

「……あ、はい」


 すんと鼻をすすって湿った息を吐き出すと、いつの間にかすぐ後ろまで迫っていた気の早い先生に間延びした口調で促され、仕方なく詩も自分の教室に戻ることにした。


 よく見ると詩のクラスに授業をしに来た日本史の先生だった。

 温厚で、生徒を叱るところなんて想像できないような先生だけれど、どうやら、わりとせっかちな性格をしているらしい。