10年後、思い出したくなる物語



「…実行委員、もう来ないのかと思った」

私は小さな声でそう言った。

「え、何で?来るよ。先週はちょっと部活対抗の練習させられてた」

沢崎くんはいつもと変わらない。

あんな意味不明な八つ当たりしたのに、普通に話してくれる。



「もしかして、寂しかった?」

沢崎くんがからかうようにふざけて言うから

「うん」

と、真っ直ぐ目を見てそう言うと、沢崎くんが一瞬フリーズしたように見えたけれど、すぐにその場でしゃがみ込んで、ワシャワシャと自分の頭を掻いてうなだれた。


「あのさ」

下を向いたままの沢崎くんの、少しボサボサになった髪の毛。

そこから声だけが聞こえる。

「うん」

私も椅子を降りて沢崎くんの前にしゃがんだ。


「部活対抗に出ようと思ったのは、国枝さんに言われたからだよ」

「私?」

「“サッカーやりたいから入部してるんでしょ”って」

あの日、家庭科室の帰りに話した事だ。

「図星、その通りだわって思って。喧嘩してんのアホらしくなって、その日の夜すぐ大森に連絡した」


沢崎くんは下を向いたまま続けた。

「国枝さんって、あんま人に踏み込んでこない子だなって思ってたんだけど」

「クソ真面目で他人に興味無さそうなのに、そうやってスルスル隙間に入って来て。何か一緒にいると調子狂う」


言い方は置いておいて、沢崎くんの目には私がそんな風にうつっていたのかと思って、黙って聞いた。