体育倉庫の扉を開けると、ゴホッと沢崎くんが咳き込んだ。
「この前に入ったのに、まだ埃くせー」
「私、マスク持って来た」
「え?準備良すぎだろ」
「2枚あるよ」
私が得意げにポケットからマスクを取り出すと沢崎くんはブッと笑って「ナイス」と言った。
2人でマスクをつけて作業を始める。
今日は沢崎くんの口数が少ない気がする。
「マ…」
「楽しかった?」
“マネージャーさんと仲直りしたの?”って聞こうとした。
けれど、私が聞くより先に沢崎くんにそう聞かれた。
「え?」
沢崎くんの方を見たけれど、背中を向けて作業をしたままだ。
「末次さんとデート」
続けて、そのフレーズが返って来たので慌てて否定した。
「デートとか、そんなんじゃないよ」
「ふーん…別にどっちでもいいけど。
委員会に私情持ち込むなよ」
何か、言い方に棘がある。
何でそんなこと言われなきゃいけないんだ。
「私情って、そんなんじゃないって言ってる」
「ハハ。そんな否定しなくても…」
私もムキになってしまう。
「沢崎くんだって、部活に私情持ち込んだから幽霊部員やってたんでしょ」
「は?それ関係なくね?」
関係ないのは自分でもわかってる。
本当は、末次先輩とのこと、どっちでもいいって言われたのがショックだったのかもしれない。
「マネージャーと喧嘩して幽霊部員?なにそれ。子供じゃん。
なのに仲直りして、サッカー部復帰して…笑い合ってさ」
私は言いながらやばいと思ったけど、止められなかった。
曝け出すってこういうことなのか?
なんか、違う気がする。
「意味わかんない」
言い終わると、沢崎くんが私の腕を引いたから少しよろけた。
「どっちが子供だよ。…てか、何の話をしてんの?」
相変わらず距離が近い沢崎くん。
泣きそうになるのを必死に堪えた。
マスクしてて良かった。
「…これ、持って行く」
私はバトンとゴールテープが入った段ボールを持って走った。
「おい」
完全に、言い逃げだ。
聞きたいこともちゃんと聞けない自分が、イヤになる。
会議室に入ると末次先輩がブルーシートを敷いていて、入り口に段ボールをドカッと置いた。
「あれ?早いね」
「あの、体調悪いので帰ります」
それだけ末次先輩に伝えると、逃げるようにその場を後にした。
それから1週間、沢崎くんは実行委員に顔を出さなかった。
