「何?おかしいこと言った?」
私は、立ち止まった沢崎くんの隣に立った。
「いや?痛いとこついてくんなぁと思って」
少し背中を曲げて、私の顔を覗き込んだ沢崎くんと目が合う。
「さっきも思ったけどさ。国枝さんって無意識に優しいよね」
「さっき?」
沢崎くんが持っている校旗入りのカゴが私の体に軽く当たった。
「家庭科室で。大森を巻いたでしょ」
「そんなんじゃない…」
「そう?
何か、調子狂うんだよな。国枝さんって」
「何が?…ていうか、沢崎くん。いちいち距離が近いのやめてよね」
そう言って、カゴごと沢崎くんを押し返すと私は視聴覚室に向かって廊下を歩き始めた。
沢崎くんも隣を同じペースで歩く。
「反応がおもしろいから、つい」
「何それ」
今まで、他人に興味なんてなかった。
冗談を言ってみたり、自分の思ったことを口に出す事なんて無かった。
自分自身のことを優しいとか、性格悪いとか、言われたのも初めて。
沢崎くんと居ると、自分でも知らなかった自分が顔を出す。
保っていたはずの一定の距離感を、少しだけ超えてみたいと思った。
何故そんな気持ちになるのか、分からないけれど。
