10年後、思い出したくなる物語



「沢崎くん。そろそろ行かないと」


私は校旗の入ったカゴを抱えて、急かすように声を掛けた。





「え?………あー、じゃあな大森。さっさと部活戻れよ」



「おい、まだ話終わってねーぞ」



沢崎くんはヒラヒラと手を振って窓を閉めた。


別に助け舟を出したわけじゃない。

やること終わったから、本当にそろそろ戻らないとって思っただけ。

それだけだ。



「戻るか」


「うん」


出口に向かいながらチラッと窓の方を見るとまだ大森くんが居て目が合ったので、申し訳ない気持ちも込めて一応軽くペコッと頭を下げた。











「手、大丈夫か?」


職員室に鍵を返して視聴覚室に戻る途中、黙ったままだった沢崎くんが言葉を発した。


「大丈夫だよ。ほら」

私が手の甲を見せると、「なら良かった」と言った。






「沢崎くん…何で幽霊部員?」


気付いたらそう質問していた。

どうしてだろう。
いつもならこんなこと聞かない。

他人のことなんか興味ないし、聞いたところで気の利いた相槌も出来ないのに。



私の少し前を歩く沢崎くんは、少し間を置いてから淡々と喋り始めた。


「小学生の時に、俺にサッカーやろうって誘ってくれた幼馴染が居てさ。ずっと同じチームメイト」
「そいつがここでマネージャーやってんの。で、…まあ、簡単に言うと喧嘩中」


「喧嘩中…」


「そう。けど部活も行ってないからそいつとは喋ってない」







「でもサッカーやりたいんだ…」


「は?何でそうなんの」


「え?だって…だから入部してるんでしょ?」


思ったことをそのまま口に出した私を見て、沢崎くんはアハハと笑った。